運動の状態
運動の状態とは
科学以前は感覚勝負
自然現象を解明しようという試みは古代からあった。
アリストテレスやタレスなどの学者達は、自然現象を支配する法則を思索によって明らかにしようとした。
自然現象の解明は主観に頼っていたのである。
そこでは実験による検証もなされないまま、より説得力のある言説が、正しい言説とみなされた。
このように時代が1000年以上も継続した。
自然現象の研究に革新的な方法を取り入れた人物が16世紀に出現した。
その名をガリレオ・ガリレイという。
ガリレオは自然現象を解明するために「事実を測定する」という手法を取り入れた。
実際に振り子の揺れる周期や、球体が斜面を転がる時間を計測した。
客観的な事実のみを用いて、自然現象の真理を見つけ出そうと試みた。
「主観を排し、測定された事実から真理を見極める」
このような手法を「科学」という。
思索のみに頼った究明は、厳密には科学ではないのである。
物理学も科学の一部門である。
従って、「事実を測定する」という原則から離れることはできない。
例えば、「物体がどのように落下するのか?」という疑問を考えてみよう。
このような疑問は古くからあったが、ガリレオ以前の世界では「落下する物体は段々と速度を増す」というような理解しかなかった。
測定器具がなかったからではない。事実を測定しようという発想がなかったのだ。
ガリレオ以後の科学ではデータが必須
一方でガリレオ以後の科学的な手法では、この疑問に対し下表のように表現する。この表は物体の落下の様子をまとめたものだ。
時間 | 位置 (落下距離) | 速度 | 加速度 |
0(スタート時点) | 0m | 0m/s | 9.8m/s2 |
1秒後 | 4.9m | 9.8m/s | 9.8m/s2 |
2秒後 | 19.6m | 19.6m/s | 9.8m/s2 |
3秒後 | 44.1m | 29.4m/s | 9.8m/s2 |
4秒後 | 78.4m | 39.2m/s | 9.8m/s2 |
5秒後 | 122.5m | 49.0m/s | 9.8m/s2 |
6秒後 | 176.4m | 58.8m/s | 9.8m/s2 |
7秒後 | 240.1m | 68.6m/s | 9.8m/s2 |
8秒後 | 313.6m | 78.4m/s | 9.8m/s2 |
9秒後 | 396.9m | 88.2m/s | 9.8m/s2 |
10秒後 | 490.0m | 98.0m/s | 9.8m/s2 |
この表では、物体がいる場所を「位置」、位置が変わっていくスピードを「速度」、速度の変化する割合を「加速度」として表現し、それぞれを時間ごとに記録している。
まさに「事実を測定している」のだ。
物体が運動していく様子は、このように時間、位置、速度、加速度で表現することができる。これを運動の状態という。
運動の状態を明らかにすることによって、物体の動きがより的確になるのである。
小中学校の作文では、「5W1H」を学習する。
「なぜ、いつ、どこで、だれが、なにを、どのように」をはっきり書くことによって、内容がより的確に表現され、読み手に正しく伝わるのである。
運動の状態(時間、位置、速度、加速度)は、物理学にとっての「5W1H」なのである。
測定した結果の全体をデータという。
上記の表は、落下する物体の運動の状態を表したデータということになる。
このデータは数字が羅列されているが、もっと視覚に訴えて分かりやすくする方法がある。
それがグラフだ。グラフは直交座標、または極座標で示すことが多い。
余談 |
直交座標はXY座標、デカルト座標ともいう。 |
位置、速度、加速度はそれぞれが勝手な値になるのではなく、相互に関連しているため計算で導きだすことができる。
ガリレオ以後、事実を測定するようになり、データを扱うようになったため、グラフや数式を利用することが可能になった。
このため科学の研究が進んだのである。
次のページから順に、位置、速度、時間について解説する。
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