物理学解体新書

力のモーメント

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力のモーメントの違和感

力のモーメントはベクトル量であり、向きがあると聞くと違和感がある。
直感的に受け入れにくいと言ってもいいだろう。


例えば、物体の移動に伴うベクトル量には、速度運動量などがある。
これら、速度運動量の向きは、実際に物体が移動していく方向と一致している。
このように「ベクトル量の向きと、物体の移動方向とは一致している」というような感覚が、ベクトルに対する一般的な捉え方であろう。


ところが、力のモーメントに関してはこの感覚が通用しない。
ベクトル量の向きと、物体の移動方向とが一致していないのだ。
力のモーメントの向きは回転していく方向と直角になるからである。
この点は、多くの人が違和感を覚え、疑問を感じる部分でもあるのだ。


力のモーメントの向きはなぜ「rとFに垂直」なのか?
「定義だから」では、違和感は解消しない。
問題は「どのようなメリットがあって、そのような定義になったのか」である。


「軸の向きや回転の向きもハッキリさせたいから、そのような定義にコジつけた」と考えると納得しやすい。


回転の様子を捉えるとき、「回転させる能力」だけでなく「軸の向き」と「回転の向き(右周り・左周り)」も必要である。
回転させる能力を示す量として、rとFをかけ合わせて「力のモーメント」を決めた。
そのとき「軸の向きも回転の向きも重要なので、同時に定義してしまいましょう」と考えたのだ。


都合のいいことに、軸の向きはrとFを含む面(回転面)に常に垂直である。
つまり、rとFが決まれば「回転させる能力」だけでなく「軸の向き」も同時に決定することができるのだ。
だから、rとFをかけあわせて力のモーメントを定義したときに、同時に軸の向きの定義も盛り込むことにしたのだ。


軸の向きはベクトルの向きで示すのが妥当だろう。
このためにFとNとが互いに直角になったのだ。
力のモーメントのベクトルの向きは、進んでいく方向を示すために定義されたのではない。
軸の方向を示しているのだ。


さらに、力のモーメントの方向には「Fの方向にネジを回転させたとき、そのネジの進む方向」という約束事も付けた。
つまり、Fの方向(物体の回転方向)が逆になると、力のモーメントの方向も逆になることになる。
こうすると、力のモーメントの向きによって、物体の回転方向(右周り、または左周り)も定義されることになる


rとFだけを使って、「回転させる能力」「軸の向き」「回転の向き」の三つを同時に定義したものが「力のモーメント」なのだ。


もしも、rとFの外積が「力のモーメント」ではなく「回転軸ベクトル」という名称であり、「rをFが回転させることによって生じる回転軸の向き」がその定義であったなら、冒頭に述べた「力のモーメントの向きについての違和感」も感じなかったことだろう。

■最初のページ:剛体の力学

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2005/06/25



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