物理学解体新書

核燃料サイクル

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核燃料サイクルの各工程

これより、核燃料サイクルの各工程について解説しよう。

[1]採鉱

ウランは地中に鉱物資源として埋蔵されている。
これがウラン鉱石だ。
このウラン鉱石を掘り出すことから核燃料サイクルが始まる。


ウラン鉱石の原産国はカナダやオーストラリア、イギリス等である。
産油国と違い政情が安定している国が多い。




[2]製錬

100%純粋なウランが塊となって地中に埋まっているのではない。
ウラン鉱石はウランと不純物の化合物なのだ。
不純物は核燃料にとって必要ないので、これらを除去しウランの純度を高める必要がある。
この工程を製錬という。
製錬されたウランを「イエローケーキ」という。




[3]転換

製錬されたウラン「イエローケーキ」をそのまま核燃料として、原子炉に投入することはできない。
ウランは濃縮しないと、原子炉内で反応させることができない。
濃縮のための段取りとしてまず、固体のイエローケーキを、フッ素と反応させて気体の六フッ化ウラン(UF6)に変化させる必要がある。
この工程を転換という。


日本は、国内で使用される核燃料のほぼ100%を輸入に依存している。
ウランはウラン鉱石やイエローケーキで輸入されるのではない。
「六フッ化ウラン」として輸入されるのである。

[4]濃縮

ウランにはいくつかの同位体が存在するが、主なものは235Uと238Uだ。
(この他に234Uも含まれるが微少量なので無視する)

つまりウラン鉱石やイエローケーキ中のウランには、質量の異なる2種類のウランが混在しているのである。
このうち核分裂するのが235Uで、ウラン中に約0.7%存在する。
一方の238Uは核分裂を起こさず残りの99.3%を占める。
235Uがたったの0.7%では、まともに連鎖反応が持続しないので、核燃料としては使い物にならない。


そこで235Uの量を増やすという工程が必要になる。
この工程を「濃縮」という。
この濃縮により、235Uの濃度は3〜5%程度となる。


「濃縮」というにしては、随分と少ない印象であるが、3〜5%程度でも十分に核反応するので発電には十分な濃度なのである。
これ以上に濃度を上げることも可能ではあるが、さらにコストもかかるので商用利用としての意味がないのだ。







なお、核爆弾に使用するウランの場合、235Uの濃度がほぼ100%程度になるまで濃縮する。


ここで濃縮の原理について解説しよう。
235Uと238Uの化学的な性質は同一であるので、235Uのみを化学反応によって集めるということはできない。
化学以外の方法で両者を分離する方法は「ガス拡散法」「ガス遠心分離法」「レーザー法」などいくつかの技術が開発されている。


ここでは国内で使用されている「ガス遠心分離法」を説明しよう。
235Uと238Uは化学的な性質は同じでも、質量が違う。
その差はわずか中性子3個分だ。


この質量の差を利用して、遠心分離によって両者をより分けるのだ。
これが遠心分離法だ。


イエローケーキは固体であるため、そのままでは遠心分離に適さない。
そこで前工程の転換を経て気体にしておく必要があるのだ。
なお、濃縮も100%国内でまかなっているのではない。
国内で消費される商用の核燃料のうち、3割程度が国内で濃縮されたものだ。

[5]再転換

濃縮されたウランは気体(六フッ化ウラン)のままである。
このままでは原子炉に投入することができないので、まず、固体に戻す必要がある。
この工程を「再転換」という。


再転換により六フッ化ウランは粉末状の二酸化ウランになる。
「まず」と書いたのは、二酸化ウランにしただけではまだ原子炉に投入できないからである。





[6]成型加工

粉末状の二酸化ウランを原子炉に装荷する形態「燃料集合体」にする工程を「成型加工」という。
成型加工は以下の3段階で構成される。

1:二酸化ウランを直径約1cm、高さ約1cm程度の円柱形に焼き固める。
この円柱形をペレットと呼ぶ。

2:ペレットをステンレス製のパイプに封印して燃料棒とする。

3:燃料棒を束ねて燃料集合体とする。




[7]核分裂

原子炉の炉心部に燃料集合体を装荷し核分裂させる。
このとき生じる熱を利用するのが原子力発電だ。


燃料集合体は3年程度使用され、取り出される。
取り出されたものを使用済核燃料という。


使用済核燃料の成分は、装荷時と比較して大きく異なる。
核分裂反応の進行によって成分が変化したのだ。
変化の様子を図示した。
各成分の面積はおおよそのイメージであって、実際の成分比を忠実に表現したものではない。




ここでは使用済核燃料の各成分がどのように生成したのかを見てみよう。






これらを順次見てみよう。
◎分裂しなかった235U
これには多くの説明を要しない。 原子炉内部では一度にすべての235Uが反応するのではない。 少量ずつ反応するのだ。
使用済み核燃料を取り出した時点で反応しなかった235Uが残っていただけのことだ。


◎ 分裂で生じた放射性核種 これは大きく二つに分かれる。
[235Uの分裂で生じた放射性核種]
ウランは中性子を吸収し分裂する。
ウランの分裂によって、新たに原子核のペアが生成する。
生成する原子核の種類は、分裂した破片内の陽子数による。
例えば、陽子数が38個と54個に分裂すれば、それら原子核はSr(ストロンチウム)とXe(キセノン)だ。
その他にも、何種類かのペアが生成される。


ペアとなっている原子核の原子番号を合計すれば当然92、つまりウランである。 どのペアが生成されるかは確率に支配されるが、おおむね質量数(陽子数ではない)96位と140位付近が多い。
この付近がとりあえず安定しており、分裂時に陽子や中性子が一団としてまとまりやすい数なのだ。


使用済み核燃料の内部にはSr、Xeなどが含まれることになる。
元素は質量数が大きいほど、中性子の数が陽子の数に比べて多くなる。
陽子同士の反発に逆らって核をひとかたまりに維持するためには、より強力な核力が必要であるため、より多くの中性子が求められるからだ。


だから、ウランなどの重たい元素の分裂でできた核は、通常の核に比べて中性子が過剰ということになる。
中性子が過剰な元素は、安定な核へと落ち着くまでベータ崩壊を繰り返すため、放射線を出し続ける。
これらを放射性核種という。
使用済核燃料は放射能を持つということだ。




[Puの分裂で生じた放射性核種]
238Uは中性子を吸収しても分裂しない。
しかし、原子炉内にあって何も起こらないかと言えばそうではない。
238Uは中性子を吸収するとPuに転換するのだ。


そしてこのPuは中性子を吸収することにより核分裂を起こし、エネルギーを放出する。
分裂すればウランと同様に新たに原子核のペアが生成する。
Puの分裂で生じる原子核も放射性核種である。


なお、原子炉に新品の核燃料を入れた直後は、235Uの核分裂だけで熱を生じる。
しかし同一の核燃料で継続して運転していると核燃料内部にPuが蓄積され、その一部が分裂し熱を生じる。
3年程度継続すると、発熱量の1/3程度はPuの核分裂に伴う発熱である。




◎238Uから転換したPu
238Uは分裂しないかわりに、中性子を吸収し、以下のプロセスでPuへと変換する。
反応式
このPuも中性子を吸収して核分裂を起こすことは前述した通りだ。


しかし、中性子を吸収しなければ何に起きない。238Uから変換した後、燃料集合体を取り出すまで、中性子を吸収する機会がないままだったPuが使用済核燃料中に残ることになる。




◎Puに転換しなかった238U
238UのすべてがPuに転換するのではない。
Puへの転換の確率はきわめて低い。
238Uの大部分は、装荷時の状態でそのまま残ることになる。



[8]再処理


ここで、使用済核燃料の構成を再度見ていただこう。
成分が3種類に色分けされているのが確認できると思う。
再処理とは使用済核燃料の塊を色分けごとに分離抽出する工程をいう。
ウランとプルトニウムは化学的な手法でそれぞれ抽出される。


回収ウランを再度濃縮すればウラン資源の有効利用となる。
しかし、国内に商用の転換の設備がないので、濃縮できないのである。
回収された235U、238U、238Puはペレット上の合成燃料として成型され、再度、原子炉に投入する考えがある。
これをプルサーマルという。


235Uといっしょに238Puも反応させてしまおうというわけだ。
235Uの反応にともない、原子炉内では、Puが生成し、その一部は中性子を吸収し分裂している。
今稼働中の原子炉は実質プルサーマルなのだ。
プルサーマルに使用する合成燃料をMOXという。
高速増殖炉が実用化すれば、その燃料もMOXが使用される。


残った放射性核種は、ガラスと混ぜてドロドロに溶かされる。その後固化される。
固化されたものをキャニスタという。
これが高レベル放射性廃棄物だ。






[9]冷却

再処理後の高レベル放射性廃棄物は熱を持っている。
最終処分前に、隔離された施設内で十分に冷却し、放射線が減衰するまで待たなくてはなる。





[10]最終処分

減衰後の高レベル放射性廃棄物を地中深く埋設する。
これを最終処分という。
2005年現在、日本国内に最終処分の為の施設はない。
これから候補地を選定し、実地調査の後、施設を建設する。
最終処分の場所の候補地選定は原子力発電環境整備機構が担当する。


冷却に必要な30年ほどの間に施設が建設される予定である。

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2005/05/18



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